放課後児童クラブ(学童保育所)の救世主? シルバー人材の活用は特に珍しくありませんし、ピントがずれています。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

 先日、ちょっと気になる放課後児童クラブのニュースが2つありました。1つは前々回(2015年12月8日)に投稿しました。今回は「放課後児童クラブに関するシルバー人材センターのニュース記事」について運営支援流に取り上げます。人手不足をシルバー世代の活用で乗り切ることはむしろ当然ですが、大事な視点が抜けていませんか、といいたいのです。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<報道から>
 北日本放送のニュースサイトで、2025年12月4日19時52分に掲載された「高まるニーズに人手確保の救世主 学童保育×シルバー人材 高岡市で取り組み」との見出しの記事です。ヤフーニュースでも配信されていました。一部引用して紹介します。
「放課後に児童を預かる学童保育では、スタッフの確保が課題となっています。そんな中、高岡市ではシルバー人材センターと連携し、シニア世代が学童をサポートする取り組みが行われています。」
「学童保育を安全・安心に運営するにはスタッフの確保が欠かせません。そこで高岡市は今年度、シルバー人材センターと連携し、課題解決に乗り出しました。」
「シルバー人材センターの協力でスタッフを増やせば、夏休みや冬休みなど長時間業務の際もやりくりがしやすく、体制を充実させられるといいます。」
(引用ここまで)
 なお、以下に引用する部分ですが、記者の認識はいかがなものでしょうか。
「学童保育は、放課後児童クラブとも呼ばれる施設で、仕事などで保護者が不在の小学生を、放課後や夏休み・冬休みなどの学校の休業日に預かります。」
 まず、放課後児童クラブ=放課後児童健全育成事業が実施される場所であって、学童保育とも呼ばれる場所です。しかもこどもをあずかるのではありません。いかに児童クラブの本質がメディアの記者にも理解されていない、非常に明確な証拠ですね。もっとメディアは児童クラブの制度を勉強しましょう。

 最初に運営支援が指摘しますが、シルバー人材センターが児童クラブに関わることは決して珍しいことではありません。今回の記事では、児童クラブへの職員派遣という形でシルバー人材センターが関わっているように理解できますが、シルバー人材センターが児童クラブの運営そのものを任される、委託を受けている例もあります。富山県では珍しいことだったのでしょうが全国的にみれば決してレアケースではありません。ここ埼玉県でも草加市ではシルバー人材センターが「第2児童クラブ」と呼ばれる、待機児童対策として設置されている18か所程度もの多数の児童クラブを運営しています。

 つまりですね、県内ニュースですので県内の状況をチェックして県内の他地域では見られないという相対的な希少価値、珍しさで報道するのは、ままありがちなのは分かります。しかしいまはインターネットで簡単に全国の状況が確認できるのですから、シルバー人材センターと放課後児童クラブの関係について検索してみれば、もっと記事の厚みがますでしょう。最近の記者はそういう手間をかけないのですかねぇ。私が現役の新聞記者だったころは(以下、鼻持ちならないジジイの自慢になるので自粛)。

<足りていない労働力の確保の点では、あり>
 何度でも運営支援ブログに書きますが、放課後児童クラブは慢性的に人手が足りていません。労働力が足りません。単に働いてくれる職員数、スタッフ数が足りないという「人手不足」ですし、放課後児童健全育成事業の核である育成支援を理解して実践できる優れた人物という「人材」も不足しています。人手不足であり人材不足です。
 シルバー世代の活用は、日本の社会が超高齢化社会になっているいま、労働力の確保として当然に必要です。活用しないわけにはいきません。75歳以上の後期高齢者は2111万5千人で、前年同月に比べ55万人の増加です。日本の人口は1億2319万人です(データは総務省統計局のHP)。もうね、労働集約型産業の典型例である児童クラブは、後期高齢者を雇わねば事業が成り立たないのですよ。働いてくれる人がいなければ事業そのものが実施できませんから。

 児童クラブの現場がとりわけ高齢者の活用に及び腰なのは理由があります。例えば「外遊びのようにこどもと体を使って遊ぶ職員が足りないので、高齢者では現場のニーズを満たせない」という理由が典型です。とはいえ、運動能力は個人差があるので、75歳以上でも、こどものサッカーに10分、20分なら一緒に加わって動ける人はいますし、わたくしのように50代半ばでとてもサッカーに数分でも対応できない貧弱な運動能力の人もいます。
 児童クラブの世界には「単純に年齢だけで」断る、敬遠することはやめようと言いたい。だいたい、そんな強気に出ていられる状況ではありません。職員配置が満たせなければ場合によっては補助金交付に影響が出る場合もあります。人を雇うにおいて、えり好みできる状況にはないのが児童クラブです。
「いやいや、児童クラブの仕事は、こどもの成長を支える、重要で専門性のある仕事だと運営支援はいつも主張しているではないか! 欲しいのは育成支援の専門職なんですよ! 誰でもいいわけじゃないんですよ!」とお怒りの方もいるでしょう。まあそれはそうですが、誰だって最初は初心者です。育成支援の専門職になろうと歩む最初の一歩を75歳で踏み出したっていいじゃないですか。要は「しっかり教育、研修することが大事」ということです。

<ほら、結論が見えてきた>
 そうなんです。わたくし萩原がなぜこの高岡の事例の記事を取り上げたかと言えば、違和感を覚えたからなのです。「救世主」は、確かに人手不足においては安定的に職員を用意してくれるシルバー人材センターとの連携は、運営に関して安心材料でしょう。頭数、こどもと関われる職員の人数を確保することは最低限に必要なことです。

 しかし、本質的に児童クラブが必要とするのは「人材」です。育成支援について継続的に学び、知識と技量を深めていく意欲を持った人物です。75歳になるまで、こどもに関わる仕事に就いていなくても、わたくしは構わないと考えます。そこから勉強すればいいだけの話です。

 シルバー人材センターで、足りない職員数を確保できさえすれば児童クラブが救われる、というものではないはずです。シルバーと提携した、児童クラブの運営はこれで安定だ、というのは、その帰結を導く思考の前提に「児童クラブは、こどもを預かる場所。児童クラブでの仕事は、こどもを預かって過ごさせるもの。こどもの見守り、見張り」という考え方があるのではないでしょうか。こどもたちを常に眺めつつ、こどもが危険な遊びをしやしないか、だれかをいじめるようなことはしないか、ということを見守りつつ、保護者のお迎えが来るまでこどもを過ごさせるという仕事であるという理解が、行政にも報道機関にもありやしませんかね。そこには、「いまの時点で、目の前のこども(と、こどもたちの集団)に対して必要な具体的な援助、支援はなにか。それをどのようにこどもたちに伝えるか、及ぼすか。その結果が職員側の見立てどおりに進むかどうか」という能動的なこどもとの関わりが必要だという理解は、おそらく、希薄もしくは全く存在していないのではないかと、わたくしは心配になったのですね。

 こどもの援助、支援と、子育てに直面している保護者に寄り添うことができる人材を確保できる仕組みこそ、児童クラブの救世主となりえるのです。例えば今回の記事、連携することになったシルバー人材センターが育成支援の勉強会を開いたとか、講師を招いたとか、放課後児童支援員認定資格研修に参加できる人から参加させるということが同時に伝えられていたとしたなら、運営支援はきっと安心したでしょう。児童クラブで勤務してもらうことになる以上、育成支援に関する教育と研修は、必要十分に運営主体が実施しなければなりません。その点、報道記事では触れられていないのが気がかりです。

 人手を確保するのはもちろん大切。今回、児童クラブに関わることになったシルバー世代の方にはぜひとも頑張ってほしいですね。重要な職務、社会的使命があることを理解すればするほど、やりがいも増していくでしょう。設置主体と運営主体がどこだか記事では分かりませんが、ただ単に頭数を揃えただけで満足せず、シルバー世代の多彩なキャリアを活かせるような職務内容の提案や、育成支援の知識と技芸の充実向上にしっかりと予算を投じてほしいです。

 そして最後に、何度でも運営支援はいいます。20代でも30代、40代でも、こどもの活発な外遊びに無理なく対応できる世代の労働力を確保するには、児童クラブは人件費が足りません。シルバー世代の魅力は人件費がかからないことです。広域展開事業者の中には好んでシルバー世代の採用を進めているところがあるように聞きますが、人件費の増加を食い止めるためでしょう。そこには育成支援の充実という視点は皆無です。
 そうではなくて、人件費をかけられない、つまり賃金、時給を上げられないから、児童クラブの現場が一番必要とする世代の労働力が確保できないのです。その根本的な原因への対応をせずに、場当たり的にシルバー世代をもってくればよい、というのでは、いつまでたっても児童クラブは人手も人材も不足したままです。

 シルバー世代の活用で児童クラブが一息つけた。しかしなぜそういう状況になったのか、そうでもしなければならない事情は何か、という考察が本来、報道機関には求められたのです。また、いわゆる日本版DBS制度がスタートしたらシルバー人材センターとの連携はどういう手順が必要となるのかについても取材して報道することが必要だったでしょう。ぜひ、報道機関には「なぜ、児童クラブはそういう状況になっているのか」「今後はどうなるのか」の視点を踏まえた児童クラブの現状と課題に関する取材と報道を期待しますよ。
 

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也